No.11.1975.4.


トマス全集出版の労苦
―レオ版の周辺―

久 保  守

ヨーロッパ中世思想に関心をもつ者にとって、
この1、2年は特に記念すべき時である。それは、
中世思想史の流れの中で、それまでの成果を
総合し、以後の流れの分岐点となった思想家とし
て13世紀のトマス・アクィナス(1225−1274)と
たばかりの頃であり、ほとんどの文書類は矢張り
羊皮紙が使われていた。トマスの著作も勿論この
羊皮紙に書かれた。ただし、この羊皮紙も高価な
もので、今日の紙を使うと同じような贅沢はでき
ない。そこで、ラテン文を書くにも、盛んに省略
ナベンツーラ(1221−
1275)とがあげられるが、
この両者の死去700年祭
にあたるからである。
 トマスに関しては、19
25年以来5年毎に国際学
会が開催されてきたが、
特にこの慣例を破って、
昨年ローマにおいて世界
各国の学者を集めて死去
700年祭が催された。
 さて、眼を図書館書庫
法が用いられた。ちなみ
に、写真Aを読んでみる
がよい。これはトマスの

著書Contra Gentilesの
自筆の原稿の一部である。
これがローマ字で書かれ
るラテン文とは、いわれ
てみなければ全く想像だ
にできないであろう。あ
る友人は私に「これはア
ラビア語か」といった。
 勿論、ある程度、省略
の一隅に向けてみよう。そこには二つ折り−in
folio−大のレオ版トマス全集がある。一見何の変
哲もない書物が並んでいる。しかし、この全集の
出版−といっても、この第1巻が出てすでに約
100年になるが、まだ完結していない−のために
は大変な苦労が隠されているのである。
 13世紀といえば、西欧に紙の製造法が伝えられ
する時の法則があり、特に、13世紀になると、こ
の法則が相当整備されてきているが、それでも、
各個人独特のものがあり、極端にいうと、トマス
の自筆文はトマスの専門家しか読めないといわ
れ、写真Aの文字については、「解読不能の文字
−lictera inintelljgibilis」といっている.19世
紀以来トマス研究が盛んになり、今世紀に入って


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