新しい「健康」の概念は、昔と違ってきた。すな
わち、世界保健機構(WHO)の憲章前文の「単
に病気や虚弱が存在しないだけでなく、身体的、
精神的、社会的に完全で良好な状態をいう。」とい
うわけで身体・精神・社会の三つの観点からの健
康度の総合評価が求められる。やや理論に過ぎて
その可能レベルを疑う学者もあるが、現社会生活
環境の条件極悪化の中で、個人の健康保全が先
決の重要課題であることに、疑いをさし挾むものは
ない。28年前このWHO憲章制定のあと、その健
康定義のより具現化の試みとして、「個人の適応
能力」、「生活での平衡状態」また「積極的な生活
能力」などの語が次々生れた。「フィットネス」
(Fitness) もその一つであり、直訳すれば「適性」
又は「適応能力」であり、生活の充実を目指して
変転する生活環境条件の中で、積極的に適応せん
とする態度の強調に外ならない。シュタインハウ
ス著、高倉訳の 『フィットネス−新しいからだつ
くり−』 日本 YMCA 同盟出版部は、その理解を
十分与えよう。
 米国で Total Fitness や Dynamic Health な
どの語に関心が集まり始めたのは、1954年朝鮮動
乱で故ケネディー大統領を中心に、国民の体力、
特に青少年層の虚弱さを戦場で痛感しての一大国
民運動であった。その辺の事情やプログラムの概
要は、米国大統領国民体力諮問委員会編、松延・
吉田共訳 『体力づくり計画』 ベースボールマガジ
ン社がよく説明するであろう。軟弱化していた当
時の初等学校体育も、この国民運動−Physical
Fitness Movement−によって蘇生して今日に至
っている、と言って過言でない。かの哲学者デカ
ルトの「われ思う故にわれ在り」にならって、運
動生理学者カルポヴィチ(P.V.Karpovich)の
“l Think and I act,therefore I live.”は米
国流のプラグマティズムに基づいた近代身体運動
価値観への至当な語であろう。また、軍人運動生
理学者で、豊富な実験資料をもつ異彩クーパー
(Kenneth H.Cooper)の新説「エアロビクス」
(Aerobics)は、体力づくり運動に革新をもたら
した。その学説、実験資料の解明には、クーパー
著、広田・石川共訳 『エアロビクス―新しい健康
づくりのプログラム―』 ベースボールマガジン社
や波多野義郎著 『新しい健康づくり−現代人のフ
ィットネス理論−』 日本 YMCA 同盟出版部など
が適当であろう。
 他方、欧州各国でも体力づくりの関心が高まり
中でも、西独の黄金計画第一、第二の道は余りに
も有名である。増田靖弘著 『国民スポーツのプロ
グラム−西ドイツ第二の道−』 不昧堂書店はその
辺の実情を述べており、特に注目をひくのは1970
年以来「君自身を鍛える!」のスローガンの下に
展開されている「トリム運動」(Trimm Aktion)
である。英語では Trim で、語源はノルウェー、
スエーデンあたりらしく航海術語で、「バランス
をとる」の意味らしい。欧米を風靡して「トリ
ム」の語はわが国でも親しまれ始めている。
 わが国では1960年の東京オリンピック大会を契
機に、基礎体力の欠如に気づいて、スポーツ振興
法と共に体力テストや運動能力テストなどが全国
的に普及して、体力づくりの国民運動が始まっ
た。吉田健一の 『日本人の体力づくり』 道和書院
をはじめ、石河利寛の岩波新書 『スポーツとから
だ』 や、中村敏雄の三省堂新書 『ビジネスマンの
体力』 また、小野三嗣の 『125歳への挑戦』 講談
社などは、一般に広く愛読されている。著者が何
れも体育指導者であり、理論と実践のマッチがそ
の魅力であろう。さらに生活化の面で推奨したい
ものを挙げると、適当なイラストもあって親しめ
るのが、スポーツ愛好者向きの、窪田登の 『スポ
ーツマンの体力づくり』 ベースボールマガジン社
スポーツ新書、家庭生活に密着した点で、高橋、
山鹿、小泉共著 『くらしのなかの図解体力づく
り』 家の光協会や、家族向きの、伊藤基記著 『親
と子の体力づくり』 不昧堂書店を、また、小野喬
の 『文研リビングカード起きてから寝るまでの体
力づくり』 文研出版や、山西哲郎の 『走れ健康つ
くりランニング』 成美堂などが、主婦や青年層に
愛読されているようである。利便な点で訳本であ
るが、ウォーリス、ローガン共著、窪田・山本共
訳の 『5分間でできるからだづくり』 なども、暇
を活用するサラリーマン層向きであろう。最後に
体育専攻の学生諸君のために、東俊郎の 『スポー
ツと体力管理』 杏林書院や、前川、石河、松田共
著の 『図説体力づくり辞典』 講談社に、文部省体
育局の 『体力、運動能力調査報告書』 、国際体力
テスト標準化委員会編、飯塚鉄雄他訳の 『運動処
方ガイドブック』 大修館書店、加えて月刊専門機
関誌 『体力づくり』 の一読を奨めておきたい。
  なお、外書購読には次の数冊を推奨しておこう。


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