古代「都市」造営 −筏 運 漕−

岡   藤   良   敬

 古代「都市」(都宮・都京)研究の最近の発展はめざましい。平城宮跡発掘調査で大量に出土した宮殿・官衙の柱根には、ほとんど桟穴とよばれる筏(桴)運漕のための穴があいており、どこからか筏で運ばれてきたものらしい。また万葉集巻一にある有名な「藤原之宮役民作歌」にみえる材木運搬の経路は、近江国田上山より、いくつかの川や陸路によって、はるばる飛鳥地方に運んだことが推定されている。飛鳥の都宮・藤原京・平城京の大宮殿や大寺院の用材は、どこから運ばれてきたのだろうか。現在考えられているのは、伊賀地方より木津川を漕ぎ下るルートや、琵琶湖周辺の杣(山作所)より勢多(瀬田)川−字治川−木津川を経て、泉木津より陸路平城京へ運ぶルート(先の藤原宮へは、さらに佐保川−初瀬川を経るルートが推定)などが考えられている。しかし木を伐り、運ぶという造営のもっとも基礎的な経過については、まだその実態はよくわかっていない。
 昭和50年度に、本図書館に購入された「正倉院文書(紙焼)」の中には、8C中葉の近江国石山寺、法華寺の膨大な造営史料がおさめられている。その石山寺の史料の中に、勢多橋本より泉木津まで筏で運んだことを直接示す16点の史料がある。関連する傍証の史料などにより、運漕の経路や日程、筏の組み方、運漕費算出法、桴工の雇傭方法や在り方などの推定が可能なのだが、それによると、徹底した点検・管理の方法や細密な運漕費算出法などが考えられ、このルートで永い期間にわたって、筏運漕による経験的蓄積があったことが推定されるのである。今回は、この時の運漕費算出の方法を中心にのべよう。
 石山寺の造営も終了に近づいた天平宝字6(762)年7月中旬、造営残材などを奈良の東大寺に返却することになり、造石山寺所は宇治司所に桴工(桴流川道知人)の派遣を依頼した。この時、勢多−宇治間の運漕費を算出するにあたり、1材毎に「榑」に換算している。例えば堂柱1根(長1丈6尺・径1尺2寸)について榑9材というようにである。造営残材であるため加工した材であるが、それぞれ榑に換算してこまかく計算している。結果は計1316物(石山寺残材・東塔所材・別当私材)を榑に換算して合計1983材となる。そして勢多橋本より宇治橋本までの運漕費は、榑1000材について米10俵という基準が、近江国司の名前で勢多橋のほとりに掲示されていたらしく(国懸文)、この公定価
格以上の請求を桴工側がしたにもかかわらず(20俵以上)、実際は端数(83材)を切り捨てられて19俵に定められてしまった。こうした材の榑換算の方法について「およその目見当で換算率をきめたらし」いという意見があるが、古代造営組織の機能的運用また細部にわたる点検は徹底しているとみられ、筏運漕の場合、とくに流失−賠償にそなえて、運漕費算出にあたり精度の高い榑換算の方式が成立していたとみられる。しかし肝心の榑については、一種の角材であり、石山寺造営でも檜榑・椙榑が大量につくられたことがわかるが、その寸法・材積を示さない。それだけ普遍的な材であったことが考えられる。が、延喜式の記載や、また傍証を重ねていくと、その一材あたりの材積として、1800立方寸から2400立方寸までの数値がえられる。問題点をあきらかにするために、榑単積1800立方寸の場合で、榑換算の方法を推定するとつぎのようになる。
 全体として、大きさ(体積)を基準にして榑に換算していると推定されるが、一材毎の体積(単積)をAとして、換算さるべき榑数(A/1800=D1)を求め、実際に換算された榑数Bとして、D1とBを材毎に対照すると、つぎのようなことが推定される。
(1) 柱・桁など6種の材は、BD1よりも材別でそれぞれ3〜1材少なくしている。運漕費は全体として押える方向にあった(この頃、石山寺造営費用は払底し、借米がつづいていた)。
(2) ところが、このような一般的傾向の中で、板材の種類については、BD1の約3倍の榑数で計算されている。このことは、(イ)流失の危険性(運漕費を高くするが、流失の際の賠償も、それにみあう榑数のものとする、事実板材に近い博風は流失し榑数を同じくして宇治津で賠償させられた)、または(ロ)筏つくりのための(くくりつけなどの)手間賃、または(ハ)もともと板材の価格が高いため、以上のうちのいずれか、またはいくつかの条件から運漕費を高くしたものと考えられる。
(3) 曲線(勾)をもった架や綿梠など6種の材は、BD1に対して、ほぼ同数または0.5〜1材多い。これらの材の運漕費が比較的高いのは、材の組み方(積み方)を考えるとき、先述した(1)の材が、むしろ筏の台(床)をなすのに対して、(2)・(3)が加工した材の運漕故、「上にくくりつけられるもの」だったためではないか。実際他の例でも、この種の材は流失して賠償させられた記録が


← P.3 図書館報 P.5 →