在任中のことども
       
            前図書館長 渡 辺 幸 生

 大学における図書館の役割はまことに重大であると、館長を退りぞいて始めて痛感するような次第です。在任中は次々に起ってくる事務処理にとりくんでいて、ややもすると理想を実現させることに力を割かなかったうらみがあったと思います。福岡大学の図書館の充実、その使命の達成に邁進した積りでおりますが、与えられた条件の下、その路線の上をどのように走れば、理想に近づくかということが、日常の努力を傾けた点であったと思います。
 私が館長に選任された時、新図書館が完成したばかりでした。業務の枠は定っておりましたが、学部の充実、大学院の設置が相ついで起り、これに対処するのに一生懸命でした。
 新図書館の環境を守ることは私の最も力を入れたことでありました。第二記念会堂の建設予定地がプールの北埋立地でありましたが、あの巨大な建物が、三層の閲覧室の南西に間近く建つことはいかがかと思って、現在の位置にお願いしたわけです。東庭の八号館階下の練習室も声を出さない体育部にかえて貰いました。
 図書館は先生と学生とに必要な情報を速やかに提供することが任務でありますが、このため第一に必要なものは資料でありましょう。それには原資料と論文の豊富な所蔵が第一望まれるわけで、図書館の蔵書数は古くから、図書館を判断する基準になっています。私の在任中、年間増加図書数は3万冊を超えておりまして、昭和45年23万冊だったのが現在47万冊となりました。この3万冊を毎年受入れるということは事務的に全く大変な仕事量ですが、これだけの豊富な受入量をもって、福岡大学の特長ある蔵書を構成するよう心掛けました。ことに原資料をあつめることに力を注ぎました。日本及びヨーロッパの古文書の集成を入れております。一例を申しますと近世ですが、フランスの鉄道新聞は日本には一部しかないと思います。その他、一揃い300冊をこえる原資料が、数十タイトル入っております。
 在任中私は広報室からの依頼をうけて、数回「福岡大学学園通信」に読書のすすめに役立つ文章を寄稿しました。「大学紛争の思想的背景について」(昭44.10.10)には私の教育論が展開されており、「自己開発の場としての大学図書館」(昭48.6.15)では学生諸君に自己開発の方法をアドバイスしています。「今日の人間像と読者」(昭49.6.26)では独創的日本の開発を要望し、「転機を迎える学生生活」(昭51.11.26)では、今日の大学生像のあり方を示唆したつもりであります。
 図書館報は昭和45年10月創刊致しまして、先生方と学生諸君との研究上のコンミュニケーションを広く深くするために努めて来ました。遅々たる歩みではありますが、学生諸君の味読を期待しております。
 図書館の事業として広く学生諸君の教養に資するため読書会、映画会、音楽会、レコード・コンサートなどがあります。美術展なども考えられますが、このうち私のできることは音楽鑑賞講座です。私はレコード音楽と親しんで50年以上になります。その間ベートゥヴェンやショパンなどを巡礼して、現在西欧中世・ルネサンスの音楽と現代日本作曲家のものをきいております。この20年間プレ・バッハ・クラブ例会を催して、スペイン、フランス、ドイツの古い音楽を味うことに努めております。そんなことからこの鑑賞講座を始めようと思い立ったのです。平野春逸教授(薬学部)は日本で有名なコレクターで、古典音楽の造詣の深い方であります。そのお力添を得まして、この講座は成り立つのであります。福岡大学ならではできないことであります。学生諸君のご来会をおすすめします。
 近頃まことに稀有なレコードが刊行されました。それは森有正氏のお話しとオルガン演奏を録音したものです。昨年なくなったこのすばらしい哲学者が、「思索の源泉としての音楽」と題して、生前吹込まれたものであります(フィリップPH8519)。現代日本は世界に誇るべき作曲家、音楽家を多数もっています。私はその世界性こそ私共の目ざす独創日本の姿だと思います。
 「図書館長を退くに当って」と題してかくように頼まれましたが、何だか自己宣伝になるような


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