「数学」への誘いII
蛯原 幸義

 前回は自然科学、社会科学の中での数学の立場位置について私の思う処を論述し、一つの現象を把握する手段として最も適切な論法は、いわゆる「数式化」を含む点にある事を強調した。その際それそのものは数学ではないが、理論的根拠を明確にする事は数学の重要な使命であろうと考えられる。さて、今回は数学の諸分野について解説し特に、私の専門である「微分方程式論」について述べてみよう。少々専門的用語が多くなるが許して戴くことにする。数学は大別して純粋数学と応用数学に分かれている。粗く云って、純粋数学は“頭と紙と鉛筆”で十分研究可能であるが、応用数学はそれに加えて何等かの“道具”、例えば、コンピューターなどを使用する場合が多くなっている。それは、前者が数学的理論の構成、発展に主きを置くのに対し、後者は、既存の理論、手法を具体例に応用し、その計算過程の信頼性を高める事や、あるいはその開発に主きを置くからである。物理工学、生態学、化学、経済工学などの他の研究と関連した、いわゆる学際的数学は応用数学と考えられるが、内容によっては純粋数学的な分野も多い。応用数学は、さらに統計数学、情報数学、計画数学のように統計、確率的アイデアを基礎にしたものと、計算数学、数値解析学のように近似理論を基礎にしたもの、及びこれらの混合型に分類されるであろう。純粋系は、代数学、幾何学、位相数学、解析学、関数解析学、実関数論、多変数関数論、応用解析学に分類される。代数学は代数的集合の性質の研究であり、群、体、環の理論が主である。幾何学、位相数学は粗く云って「図形」の研究である。解析学等は、関数空間、あるいは抽象空間とその上に作用する写像(作用素)の研究である。応用解析学は微分方程式論を主にした解析学で物理工学上の問題を取り扱う事が多い。ところで、この分類は非常に大まかなもので、ここで詳述する事はできないが、それぞれの分野はさらに細分化され、多岐に亘り、先端の研究は同じ分野に属していても即座には理解できない程高度化され、精密化されている事を注意しておこう。
さて、前回も述べたように、ニュートン、ライプニッツによって極限の概念が確立されて以来微分積分学が発展し、それに伴い微分方程式論も進展を続けているわけであるが、この理論について専門的立場から述べてみよう。1個の独立変数とそれに従属する関数,及びその導関数の間の関係式を「常微分方程式」独立変数が2個以上の場合を「偏微分方程式」と呼んでいる。独立変数が定義域を自由に動いたとき、ある関数がつねにその方程式をみたすように定まれば、これを「解」と呼ぶ。解の存在性、一意性、附加条件についての依存性、及び解の挙動等を調べる事が目的となる。自然現象の中で最も重要なものは、熱の伝導や溶液の浸透などのような「拡散」、音波、電波、光波などのような「波動」、そして、作用と反作用とがあたかも均衡を保ち静止している状態を表す「平衡」であろう。これらの問題に対し、多くの自然科学者が「微分方程式」を設定し、実際の現象と「解」の比較を行ってきたのである。その過程において、多くの解析学者が研究の対象を自然現象そのものよりも数学的、抽象的問題に発展させ、微分方程式も「作用素方程式」に抽象化させ、いわゆる関数解析学的手法により議論するようになった。その例として「微分方程式論」をとらえればよく理解できるのである。ここでは専門的に深入りする事は避けて、微分積分学と線形代数学を基礎におけば、「微分方程式論」や「差分方程式論」で十分理解できる簡単な例を挙げてみよう。人間が生まれて死に至るまでのその個人の身長をグラフにしてみると、一般性を失う事なく下図のようになる。
グラフ
これは、生後しばらくはたいして成長しないが、5才から18才にかけては著しく成長し、20才前後


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