春に、デニムのGジャンにピンク色のインナーというスタイルが街に溢れたかとおもえば、更にはピンク一色の影に隠れていた青色やオレンジ、そして、パステルカラーのTシャツやジーンズなどが街を彩るとともに、サイケ調のプッチ柄、ロゴマークを配したモノグラムといった柄物も流行り出した。この傾向は、秋になると一変し、黒や茶色を中心としたレザージャケットにタイトスカート、ブーツといった格好が一斉に街を埋めはじめる。そして、秋から冬にかけ、花をモチーフとしたコサージュや色柄豊富なタイツなど続々とヒット商品が登場し、街に新たな彩りを加えている。以上2000年の流行ファッションの概観である。
わずか1年の間にも、人々を飾るファションの流行はめまぐるしく変化している。あるファッションに一斉に群がったと思えば、あっという間に離れてしまう。移り気でかつ多様な嗜好をもった消費者が溢れる市場に、マーケッターはとまどいを隠せない。彼らマーケッターが前提とする合理的で一貫性ある行動をとる消費者などはもはや存在しない。仮説をいったん捨て、「時代の水位から頭一つ抜け出した知性で」世の中を眺めるべきである。と、社会学者の上野千鶴子は、立てた消費者像の仮説が次々と崩れていき、混乱するマーケッターを皮肉る。
もっともな意見かもしれない。しかし、敢えて時代の水面下に潜り、視えないファッション現象の規則性や流行のメカニズムを明らかにしていきたい。このような思いから、産業経済学科で今年新しく開講したフィールド調査の講義の一環として、受講生が2000年12月、2つの調査を企画し実施した。1つは福岡ファッション観測調査、もう1つは大名地区ファッション・流行調査である。(1)福岡ファッション観測調査は、九州最大の商業集積地である天神と、福岡発の流行発信源として近年注目を集めている大名で、 |
|
今、福岡の街を彩っているファッションをデジタルビデオで観測する調査であり(2)大名地区ファッション・流行調査は、大名の来街者に、個人属性とともに過去のある期間に実際購入したファッションアイテムや今後購入予定のアイテムについて、アイテム名、色、ブランド名、素材、価格、そして購入した店舗、といった項目等を尋ねる調査である。
これまで、社会学をはじめ、心理学、文化人類字等、ファッションは、各々独自の視点で議論されてきたが、そのはしりは、異端の経済学者として知られるソースティン・ヴェブレンの流行伝播説である。ヴェブレンは、ファッションを上流階級の人々が、富や名声、そして社会的地位を誇示するためのシステムとして捉え、流行現象を次のように説明する。上流階級が自らを下層階級と区別するために新しいスタイルを生み出すと、下層階級がそれを模倣する。同じようなスタイルが社会のなかに蔓延すると、上流階級は差別化するために別のスタイルを提案しなくてはならなくなる。ヴェブレンの説は、後のファッション研究に大きな影響を与えており、階級の壁が取り払われた近代、そして現代においても、自己と他者とを区別するため「差異」と模倣による「同質化」の運動として流行現象を捉える考え方は新鮮である。
このような視点で、現状のファッションをとりまく世界を眺めると、「差異」と「同質化」の運動のサイクルの間隔が極めて短くなってきているとともに、莫大な数のサイクルが存在している状態であると捉えることができよう。サイクルの数や種類の特定や発生・消滅メカニズムの解明等、流行やファッションをめぐる問題は山積みされている。
前述の2つの調査の実現を契機として、今後、社会や時代の流れにどっぷりとつかりながら、消費者が視えない時代の中でのファッションのトレンド予測問題という難問に学生諸君とともに挑んでいきたい。
(経済学部 講師) |