23.圓山妓樓佳景時計(外) まるやまぎろうかけどけい

中本一冊 高木孝太郎(たかぎ・こうたろう)著 明治十四年(1881)四月刊
 長崎今鍛冶屋町 鎌田勘次郎(かまた・かんじろう)版 活版

所蔵情報(圓山妓樓佳景時計(外)まるやまぎろうかけどけい)
表紙写真(圓山妓樓佳景時計(外)まるやまぎろうかけどけい) 内容写真(圓山妓樓佳景時計(外)まるやまぎろうかけどけい)

 本書は活版和装の長崎圓山妓樓評判記であり、題名に示す通り、当時新風俗の掛時計を趣向として、早朝四時五時頃に始まる妓樓内の様子から以降二タ時づゝを一章として翌朝二時三時迄、全十二章に、その情景の隈々を漢文体に描写するのは、幕末の「江戸繁盛記」「柳橋新誌」に始まり「東京新繁盛記」「西京伝信録」等、明治十年前後迄空前の盛行を見た所謂繁盛記モノの一角を占めるものであり、その中でも最も稀本と称してもよいものである。
 その章題のみを記してみても、大方その内容を窺い知る事が出来そうなので、以下に書き下してみる。

四 時  五 時 暁風、鴛鴦ノ衾ヲ吹イテ冷シ
六 時  七 時 舜花開キ、娼妓情動ス
八 時  九 時   圓話處、語ハ恍惚
十 時  十一時 艶書、学ビ得タリ紅場ノ中
十二時 一 時 情ヲ鬻グ妓、芸ヲ賣ル女ニ劣ル
二 時  三 時 針線須カラク情郎ノ衣ニ用フベシ
四 時  五 時 書ヲ齎ラシ暗ニ窺ウ情郎ノ意
六 時  七 時 薫湯、玉梳、粧テ艶ヲ得タリ
八 時  九 時 朱楼、宴酣ニ、歌舞盛ンナリ
十 時  十一時 窓外、情濃ヤカニ、玉閨淡シ
十二時 一 時 繍衾、暖キ處、艶情、濃カナリ
二 時  三 時 巫山ノ夢、雲雨結ビ起ツ

 まさしく京伝作洒落本「錦之裏」か、静軒居士の「江戸繁盛記」吉原の章の舞台を長崎圓山の地に移したもの。著者は見返しに「驚論喧狂士(どろんけんきょうし)」と戯名するが、奥付には「長崎縣長崎区萬屋町 長崎県  高木孝太郎」と、その実名を記している。巻頭には三階建に二階は洋風の廊下、三階は鎧戸つきの窓といった新風俗の圓山花街を画く見開きの絵を設け、序跋文は天然舎迂似夢史(うじむし)、馬角斎(ばかくさい)仙峯、換心山人馬辛史(ばからし)、無着茶(むちゃくちゃ)菴瓢乎子等々、精一杯に茶化しまくる中にも、いかにも明治調といったところがうかがえて面白い。