1(A).葵氏艶譜【きしえんぷ】(外)

(刊)大本三巻三冊
享和三年(1803)六月刊
雙鳩子【そうきゅうし】(秋圃【しゅうほ】)[画]
大坂 上田宇兵衛【うえだ・うへえ】[板]
大坂 村上佐吉【むらかみ・さきち】[板]
彩色版
初版
鬼洞文庫旧蔵

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      秋圃の初期の代表作、大坂新町の廓の生活を描いた『葵氏艶譜』の初版本。 巻頭に生生瑞馬(山口氏・大坂在住 の俳諧宗匠)の漢文序と茅淳【ちぬ】翁奇渕(大黒庵・大坂在住の俳諧宗匠)の和文序がある。和文序冒頭に 「紫氏がものがたり六十帖 其みなもとにはさかのぼらねど、すべて艶詞をもはらに書て風情をつくせること     又くらぶの山のおぼつかなきものにはあらず(後略)」とあり、本書は「紫氏」(紫式部)の『源氏物語』にも 劣らない「葵氏」(=葵衛・雙鳩子・秋圃)の画による艶書であるという内容、および書題の源を表明する。本 書の構成は各巻見返し扉に四隅に羽を広げた蝙蝠の枠で飾られた題字(半丁)の後、上巻は序(二丁半)、本文 にあたる画(計十一丁)が続き、その間に諸家の発句(計二丁)が入る。中巻は画(計十丁半)と発句(一丁)。 下巻は画(計十一半)、発句(一丁)、奥付(半丁)。句を寄せるのは、不二庵二柳(勝見氏、加賀出身のち大 坂在住)、大江丸(安井氏、大坂在住)を筆頭に序文を記した瑞馬や奇渕も含めた諸家の発句を置き、時折「太 夫 松が枝」「引船 初枝」といった遊女も交じる。本書の大半を占める画は、上巻は正月元日の愛染参り(贔 屓客と共に四天王寺・勝鬘院愛染堂へ参拝する行事)からはじまって盃事に終わり、中巻は客を迎える座敷の盆 景・生花から玄関先で客を見送る、きぬぎぬの別れまで。下巻は夏の揚屋の二階での夕涼みから表通りの蕎麦屋 の景まで。途中、化粧姿(上巻)や、台所、帳場(中巻)、風呂場(下巻)など、板元・文英堂主人による本書 巻末紹介文どおり「なには新町の事実(中略)すべてありとあらゆる喜怒哀楽のこゝろもち(後略)」が描かれ、 廓の舞台裏を知る幇間【たいこもち】・亦介こと「葵氏」(雙鳩子)の視点ならではといえる実風景が、独特の 伸びやかで温かな筆遣いで再現されている。