商学入門
   −新入学生のために−

             塩 谷 巌 三

 本大学では、一般教育科目の「商学」が、本年
度から商学部だけ「商学総論」と改称、専門科目
として取り扱われることになった。
 商と商業、商学と商業学、それぞれどれだけの
相違があるのか。常識的には、そのいずれもが、
商売、商店、商社、商人などの一連の言葉ととも
になにかしら売買、交換、取引に関連しているこ
とはわかるが、その相違を述べることは、必ずし
も簡単ではない。
 商または商業に関する学問としての商学は、商
業学から発展して商学となり、その商学の中に再
認識された商業学があると言う者がある。
 売買取引の行なわれるのは市場であり、市場に
おける取引は、需要と供給が交換によって結びつ
けられる一つの複合経済である。
 市場において各個別経済を結びつける交換、す
なわち取引は、種々雑多な形で行なわれ、取引の
客体も有形・無形の社会的生産物に限らず、取引
の目的となるすべての「もの」について発生する。
各個別経済は、これ等多くの種類の取引によって
結びつけられ、存続しているものであるが、それ
がいかに複雑にからみあっていようと、すべて交
換という関係に還元される。
 人類は欲望の満足を得ようとして、あらゆる行
為をする。この際、彼が理性を有する以上、必ず
や同じ結果を得るためには、それに要する労力や
費用を出来るだけ節約し、また同じ労力や費用を
費やすならば、出来るだけ大きな結果を得ること
に努力する。一つの値で他の値を除した比が商で
あり、その商が大である程、経済性が大であり、彼
の経済的努力が成功したことになる。商とは数学
上一つの値を他の値で除した比であり、またこの
計算に基づいて交換取引が行なわれるのである。
 古代の自給自足の経済では、交換という現象は
現われない。しかし、これらの人達の居住する地
域の気候風土などの違いから、自然的生産物に差
異が生じ、また人智が進歩発達するにつれ、各人
の技能の相違から、または技術的理性の要求から各人のやっている仕事の分析が行なわれ、そのうち自己の得意とする仕事を主体とする種々の社会的分業が生じ、生産者と消費者とが切り離されるようになって交換が世の中に現われて来たのであるが、現在われわれが見るような個人的・経済的側面をもつ交換が、一般化したのは近代社会が成立してからである。
 交換は、一対一の関係で実現するが、その背後には多くの需要者もしくは供給者が存在し、かつ求められる。交換活動が行なわれる場合、交換の対象となるものについての効用、すなわち使用価値の測定、ついで交換価値の測定が行なわれる。その機能が商であり、この測定においては、より有利な交換をした側が、このような交換を数多く行ないたいと考える。この考え方の実現する処に、業としての商、すなわち商業が出現するのであり、交換活動が盛んになれば交換の媒介を行なう者が出現し、交換の媒介活動が頻繁かつ多角的になれば媒介手段としての貨幣が発生し、そして有利な交換を数多くなした者に貨幣が蓄積され、それが貨幣資本(資金)となる。この価値あるものの交換の繰り返しを業とすることが商業である。
 商と商業とを研究対象とするのが商学と商業学であるが、その本質的相違点は、業という字がない簡略化されただけのものではない。
 商学は、商業学から発展した一つの新しい経済学的研究体系であり、実在科学たる経済学の一部門である。経済学は社会科学の一類であり、社会科学が、目的科学であると同時に現象科学であるから経済学もまた目的科学たると同時に現象科学たる性質を有する。商の理念は、一つの経済的指導精神であり、これによって構成された経済学が広義の商学であり、現象科学としての経済学が生み出した特殊の専門科学が狭義の商学であるが、詳しいことは講義に譲る。

 参考書:森下二次也編  商業概論
      鈴木保良著   商業学
      福田敬太郎編著 商学概論、商学原理
      向井 鹿松・ 
      福田敬太郎 責任編集  体系商業学
      その他
                     (商学部教授)


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