『スペイン語への招待』


園  田  守  男

 スペイン語は同じヨーロッパの言語であるという点で、フランス語やロシア語と共通点を持っているが、スペイン本国の他、中南米約20ケ国の国語であるが故に、特に商業用語、外交用語として独特の重みを備えている。
 スペイン語は欧洲語の中でロマンス語(ラテン語系統)に属する。だから文法はフランス語やイタリア語と似ている。しかし発音はむしろ日本語に近く、私達に親しみやすい言語である。勿論、日本語流のイントネーションやアクセントでは、スペイン語にはならないが、それでも或程度通じるという点では、フランス語と格段の相違がある。
  英語にしろ、スペイン語にしろ、言語の学び方に大した差はないと筆者は信じる。即ち初歩の間は教師による、又は正しく録音されたスペイン語の短い文章(初心者の力に応じて旨く配列されたもの)をオーム返しに真似して大きな声で発音し、適時教師による指導、矯正を得ながら、それらの文章を空んじることが出来るまで繰りかえし覚えることである。文字も知らない幼児が、テレビのコマーシャルを何時の間にか覚えたといって吾が子は天才なりと自惚れる親馬鹿もいるが、実はこれこそ語学習得の王道であって、この調子で幼い時から語学の聴視覚教育を受ければ、必ずや或程度までのびると筆者は信じている。
 初級の講義を受けている学生諸君の中に、「もっと文法を教えて下さい」とか、「会話を主体に、講義が出来ないでしょうか」とか、筆者から見れば、吹き出したくなるようなことを言って来る人が時々ある。初級の講義は、即ち、文法と会話から成り立っているのである。A B C 30 文字は、これらの字を使って文章を書こうという文法そのものであり、人称、数によって動詞が変化することも文法である。初歩で教える文革は人々が日々使っている会話でなくて何であろう。たまには事物や人物を説述する文もあるが、それとても日常会話に使用される表現を逸脱するものではない。初歩の学習は文法と会話が混然一体となったものであり、
  会話は発音を含んだものでなくてはならぬ。
 紙面もすくないので入門書の紹介に移ろう。戦後スペイン語学習者の人口が急増し、それと共に入門書の数もその種類もふえて来た。独修者用の入門書は、急な坂道をむちをあてて登らせるような第2外語の履修生にとっても、願ってもないガイドである。東京外語大名誉教授、笠井鎮夫著、大学書林発行「スペイン語四週間」は昭和5年初版発行以来、改訂と増補を重ね、初学者の興味をたくみにそそらせつつ、スペイン語の基礎を充分に体得させ、最後には文学作品の断片を味あわせる程のゆとりをもった定評ある入門書である。但し、本当に「四週間」でこの本をマスター出来る人は余程の天才と言わねばならぬ。
 その他、入門書として東京外語大教授長南実著「スペイン語への招待」駒沢大教授細川幸夫著「絵で学ぶスペイン語」東京外語大教授宮城昇著「スペイン語文法入門」神奈川大教授岡田辰雄著「やさしいスペイン語の作文」更に同氏著「生きたスペイン語会話」などそれぞれ独特のテクニックをもった参考書があるが、英語との対比をしながらスペイン語を研究したい人に、森本林平著「英語からスペイン語へ」をおすすめしたい。又異色ある入門書として、天理大教授瀬田栄之助(この方はこの本の完成した姿を見ずして昭46、2、3病没された)著「スペイン文化とスペイン語の研究」大盛堂書房、1,500円は524頁にわたる尨大な作品で、スペインの歴史政治思想文学美術など言語の脊景を熱っぽい調子で語りかけながら同時に語学のポイントをたくみに覚えさせようという野心的な独修書である。結果として同先生のライフワークになってしまったが、全編にあふれる彼の情熱は病床の中で筆をとられたとは思えない程のヴァイタリティーを感じさせる。
 最後に、スペイン語を実用語としてだけではなく、一億五千万の人々の国語として、その人々の文化を吸収し日本文化と交流する意味を含めて、この言語を再認識してほしいと思う。
              (本学非常勤講師)


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