図書館報タイトル画

No.89. 2001.4



英国ケンブリッジでの「発見」
平松 信康

 研究のために私が一年間滞在した英国ケンブリ
ッジ市は、人口約12万人の小都市である。学者と
学生の町なので、当然のことながら本屋が多い。
Heffer's や Waterstone's などの大型書店では、
店頭で私の専門分野の本が見つかるので嬉しか
った。「本は本屋の店頭にあって当たり前ではな
いか」と思われるかもしれないが、「超分子物性」
という物理学の狭い特殊な分野の原書が、日本
で一般書店の店頭にあったためしはない。ケンブ
る。この初版本にはおおいに惹かれたが、残念ながら、私に手が届く値段ではなかった。
 もう一つ、David's でみつけた本がある。J.Watson 著“The Double Helix” の初版本である。この本は、遺伝子の本体である DNA (ディオキシリボ核酸)の二重らせん構造を発見した著者が、その研究の過程を克明に綴ったものである。1962年のノーベル賞受賞後に出版され、日本でも話題になった。この発見によって、分子生物学という新しい分野の学問が
リッジのこれらの本屋では、それぞれのコーナーに専門の担当者がいて、見あたらない本の探索などを助けてくれた。彼らが博識であることは心強かった。
 古い大学町には歴史ある古本屋がいくつもある。滞在中、いろいろな古本屋を探索することは大きな楽しみであったが、なかでも、David's Bookshop という店がおもしろかった。ここには普通の古本以外に、「古文書」とでもいうべきコーナーがあるからだ。このコーナーは、間口の狭い店の奥の方にあり、古い地図や版画から大判の聖書まで、歴史博物館か資料館などで見るよう
イメージ画像 スタートし、現在の生命科学へと至った。
 この希有の研究は、ケンブリッジ大学の物理学科であるキャヴェンデイッシュ研究所において、生物学者である Watson と、物理学者である F.Crick によって、X 線回折という物理学的実験手法で行われた。物理学が新しい生物学の誕生に貢献したのである。この本は、私の小遣いの範囲で買える価格だったので、早速購入し、興奮の内に一気に読みおえた。もとの持ち主が挟んだものか、出版直後の書評記事と、キャヴェンデイッシュ研究所の所長であった L.Bragg の推薦文記事の色あ
な貴重な古文書資料が、商品として実際に売られている。
 そこで私は、1859年出版の Charles Darwin 著「種の起原」初版本を、手にとって見ることができた。表紙は後に装丁し直したらしく、新しい革表紙であった。Darwin はケンブリッジの町の中央に邸宅を構える名士であり、そこは今、Danwin College となっている。現在でも彼は、英国科学の祖として、17世紀の Isaac Newton と人気を二分してい
せた新聞切り抜きを発見したのも、意外なおまけをもらったようで愉快だった。
 この本のなかに、「初めてケンブリッジにやってきたWatsonが、ジーザス・グリーンに接したアパートを見つけた」という記述があるのだが、このくだりを読んで、私は、あっと思い出すことがあった。それは、大勢の観光客でにぎわう旧市街の通りから少し離れた「ポルトガル・プレイス」という路地に
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