私にとっての図書館 経済学部准教授 武井 敬亮

 私は社会思想史を専門としています。その中でも、17世紀のイギリスの思想家・哲学者のジョン・ロック(John Locke, 1632-1704)についての研究を行っています。ロックは、政治・宗教・哲学等、様々な領域で現代にまで影響を与える人物のひとりです。
 ロックの思想を研究する上で、多くの文献資料が必要となるため、図書館をよく利用します。当時、イギリスで起こっていた様々な出来事に対して、彼がどのように考えていたのか、また、彼の考えが同時代および後の時代にどのような影響を与えていたのかを明らかにすることが私の研究課題です。
 そのために、ロックが書いたものを読んで分析しますが、当然、分からない箇所がたくさん出てきます。もちろん、現代の人であれば、インタビューをして意見を聞くことも、真意を尋ねることもできるかもしれません。しかし、ロックは300年以上も前の人物です。直接、彼に尋ねることはできません。研究の難しさ(と面白さ)はここにあります。ロックの残した痕跡を辿りながら、彼の考えを再現しなければなりません。
 ロックは、出版物であったり、手紙であったり、手稿であったり、様々なかたちで自身の思考の痕跡を残しています(ロックの所蔵していた書物の種類から、彼の思考の特徴を解き明かそうとする研究者もいます)。有名な著作としては、民主主義の礎を築くことになる『統治二論』や、政教分離思想を説いた『寛容についての書簡』、近代イギリス経験論を確立した『人間知性論』等があります。こうした著作だけでなく、手紙や手稿の一部についても、後代の研究者によって、校訂・編集が行われたものを読むことができます。
 しかし、現在、ロックの書いたものすべてが出版されているわけではありません。いくつかの重要な手稿は、依然として、未公刊のままであり、その内容を確認・分析するためには、現物を見なければなりません。また、当時のロックの思想の影響力を分析するためには、同時代に出版されたものを読む必要がありますが、それらについても、すべてが出版されているわけではありません。

もちろん、図書館のデータベース(例えば、福岡大学にも2018年に導入されたEarly English Books Online等)を使って入手できるものもありますが、すべてではありませんし、ロックの手稿については、直接、所蔵されている図書館で見る必要があります。
 そこで私は、ここ数年、海外の図書館に資料調査に出かけています。イギリスのBritish Libraryやオックスフォード大学のBodleian Libraryを主に訪れています。例えば、British Libraryでは、当時の定期刊行物(The Occasional Paper, London, 1697-)を入手し、ロックの著作に対する同時代の反応を調べたり、また、 Bodleian Libraryでは、ロックの手稿を借りて、ロックが何を根拠に自身の議論を組み立てているのかを調べたりしています。
 ロックは、なぜこのようなメモを残したのだろうか、なぜこの本のこの箇所を書き留めたのだろうか、彼の目に当時のイギリス社会はどのように映っていたのだろうか等、現物を目の当たりにして、単純に感動を覚えるだけでなく、様々に思いを馳せています。過去にタイムスリップはできませんが、私にとって図書館は、17世紀のイギリスへと誘ってくれる重要な場所になっています。学生のみなさんの場合、直接海外の図書館を訪れることは難しいかもしれませんが、ILLサービスやデータベースなどを上手に活用して、自由自在に時空を飛び越える経験をして欲しいですね。

The Weston Library (part of the Bodleian Libraries):寄稿者撮影