25.新板早繰年代鑑(外) しんばんはやくりねんだいかがみ

大本一巻一冊 元治元年(1864)刊 國東郡高田 安達四郎兵衛(あだち・しろうべえ)蔵板
 中津古博多街  藤吉右衛門(とう・きちえもん)彫刻

所蔵情報(新板早繰年代鑑(外)しんばんはやくりねんだいかがみ)
表紙写真(新板早繰年代鑑(外)しんばんはやくりねんだいかがみ) 内容写真(新板早繰年代鑑(外)しんばんはやくりねんだいかがみ)

 大本一冊、全十丁の本書は、版式、版面何れをとっても典型的な田舎版の趣きをよく示すものだが、よく流布したと見えて、現存する数は今回の公開諸本の中でも最も多いように思う。但しその内容は年代記として特に新味のあるものとも言い難いが、巻末に「豊後國崎郡高田 安達四郎兵衛」とした「保寿丸」「玉宝丸」二種の薬種効能書半丁を附しているので、要するに薬種屋安達氏(巻頭には高田住鍛冶屋街 亀屋四郎兵衛とある)蔵版の配り物として配布され、結構重宝がられたものであろう。巻頭に「此年代記ハ年号ノ始、大化元乙己ヨリ当年迄千弐百餘年之間、年号替り目、十干十二支何事も委しく相しらべ出申候、神社仏閣、大将勇士、高貴ノ人、高貴ノ僧、諸宗門ノ開山、萬物諸品出来始、其行ひ之年号時代出申候」等の凡例があって大方内容もしれようが、見落とせないのは刊記代りの箇所に「彫刻師 筑前州博多之住  当時豊前中津古博多街何某元滞留中 藤 吉右衛門 印 」という一行が見える事である。この藤吉右衛門という人物は、江戸期唯一の筑前国図の板図を彫刊した人物であり、それが当時中津に滞留して、この年代記の彫板を行なったという。本書は、当時このような彫師といわれる職種の人々が、諸地方を渡り歩いて仕事をしたことを推量する資料の一つでもある。