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農家訓
   序
 稀なる齢を祝はれし年もたちて、去年の春に移 けるに、未だ脚のわづらはしからざるまゝ、頻に都の春の 慕はしく、旅の調度をとりぐ催せしかども人々の許さ ざれば思ひとゞまりはしつ。せめては本州の端々をも尋むと て、千年河の春を惜みしより、朝倉山の郭公の初音に おどろき、香椎潟の涼き月、さやがた山のさやかなる秋の詠 を尽しけるに、或は寺院に舎り、或は村長のもとの 仮寝に、賤の男しづのめをあつめて、農家の心得