ご挨拶

  福岡大学が創立75周年を迎えるにあたり、記念事業の一環として『雅文学への誘い ―「江戸・明治漢詩文コレクションを中心に」 ― 』と題する図書館特別展を開催することになりました。このコレクションは、元人文学部日本語日本文学科教授、中野三敏先生が収集されたもので、先生の御厚意によって本学が購入したものです。これらの公開と先生御自身による講演会を開催いたします。この記念事業を開催できますことは福岡大学図書館のみならず、福岡大学全体にとっても大きな喜びであります。
  ここでコレクションの簡単なご紹介をさせていただきます。特別展のタイトルにも「雅文学への誘い」として掲げておりますが、中野先生は、江戸時代の文化の成熟期に当たる十八世紀を「雅と俗の融和」として捉えられています。「雅文学」を構成しているのが伝統的な素地の上に成り立つ漢詩文、詩学書、経学、和学、和文、歌文等の領野です。一方の「俗の文化」を構成しているのは江戸時代独特の俳諧、戯作、写本、狂歌、狂詩、茶・花・易占などの諸芸、絵画、書道、教訓、本草等から成る分野です。これらが成熟期の江戸文化を構成しているとされています。特に、格調高い漢詩文は俳諧等に比べて調査研究が遅れており、『国書総目録』には未掲載のままだそうです。したがって 資料的価値は高く、それらの所在を明らかにしていくことは大いに意味のあることといえます。中野先生が長年に亘って収集された「雅と俗の文学」は、江戸文化に関する資料としては第一級のもので非常に価値が高く、質量共に他に類をみないものです。これだけまとまったものは今後二度と出ないと思われます。
  本学図書館は既に「九州文献コレクション」を所蔵しており、これに中野コレクションの内の「雅の文学」が加わりましたので、世界でも有数の「江戸文学文献研究センター」が構築されつつあると思います。近世文学の研究は、今日次第に進展しつつありますので、今後国内外から多くの研究者が本学を来訪するようになると思います。 今回、「雅文学」の公開とそれに関する講演会の開催に漕ぎつくことが出来ましたのは、中野先生はじめ、日本語日本文学科の先生方の貴重なご助言、ご協力をいただいたお陰でありますし、コレクションの図録、目録、解題等の作成を担当していただいた関係者の方々のご尽力の成果でもあります。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。

福岡大学図書館長 平兮 元章