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今日でいう法学・文献学・言語学・歴史学・民俗学等々といった広範な学問領域の全てにわたって巨大な足跡を残したグリム兄弟の全業績の中で、何といっても一番有名で、かつ、世界中の人々から愛され続けているのが『グリム童話集』です。一口に「グリム童話集」とはいっても、これは兄弟の生前7回も版(大きい版)を改めましたし、50話から成る『グリム童話選集』(小さい版)も同様に10版を重ねたので、版毎による異同というものが存在します。そして、現代におけるグリム童話研究が要求する学問水準は、いうまでもなく、こうした一次資料の精緻な検証と正確な考証とを出発点としています。
さて、本学付属図書館が収蔵する「グリム・コレクション」は、現在(2003年3月31日)ドイツ語による原書だけでも500点を超え、その中には貴重書も多数含まれることから、国内外屈指のコレクションとして高く評価されています。『グリム童話集』に限っていっても、「大きい版」のうち第2, 3, 5, 6, 7版が、そして「小さい版」のうち第2, 6, 9, 10版がオリジナル本で構成されています。
今回『第2版』
(所蔵情報)の全文テクストデータベースを作成・公開した理由は二つあります。一つは、『第2版』そのものが持つ学術資料上の価値を勘案したためです。実質的な編集作業がほぼ弟のヴィルヘルム一人に委ねられた第2版は、
1. 「子供の聖者伝」が付加された
2. 初版におけるメルヒェンテクストが大幅に書き換えられた
3. 初版において各メルヒェンに付されていた「註」がまとめ
られ「別冊」となった
4. この版を元にして外国語翻訳が始まった
5. ゲーテ、グツコウ、メーリケ等、著名なドイツ作家達による童話の言及・引用は、全てこの版に基づいている
等々の事実から、『グリム童話集』変遷史における岐路に立つものとして認知されています(ハインツ・レレケ教授の表現をお借りすれば、第2版から,童話におけるいわゆる「グリム・ジャンル」が確立されることとなります)。もう一つの理由としては、『第2版オリジナル本』という原典を可能な限り忠実に復元するべく、TeX / LaTeX というコンピュータによる電子組版テクノロジーに関する新たな技術開発を試みることで、この分野においても新たな貢献を為す、ということが挙げられます。今回は実際に、各種ドイツ旧字体フォントやこれらを制御するプログラムをも作成し、テクストデータベースと合わせて公開・配布しています。そして、こうしたことは、『第2版オリジナル本』という「古典」と真剣に取り組む(誤植等をも含め一字一句を疎かにしない)ことで、初めて可能となったものです。
全て ASCII エンコーディングによるテキストファイルとして作成してあります。ASCII に含まれない「ドイツ語特殊文字」等は "a = a-Umlaut、 "A = A-Umlaut、 "s = Eszett のようにマークアップしてあります。詳しくは、Web 上の解説、また、そこに置かれているマニュアル文書(日本語)を参照してください。さらに、テクストデータベースはフリーの組版ソフト LaTeX との親和性を考慮して作成してありますので(LaTeX は UNIX, Windows, Macintosh 等どのようなコンピュ
ータ上でも使えます)、LaTeX を用いれば、ほぼ全自動で高品質の整形済み電子文書までが得られるようになっています(最終出力を PDF ファイルとすることもできます)。
なお、Web 上での全文検索の便宜を図るため、pnamazu という高機能な検索エンジンも設置してあります。
お使いのPCにTeX環境がなくても、オンラインでPDFファイルを作成できるサービスもあります。
※本学人文学部ドイツ語学科の永田善久助教授による、現代におけるグリム(童話)研究の第一人者であるハインツ・レレケ教授校訂によるレクラム社本に基づいた第7版(決定版)の全文テクストデータベースもご利用いただけます。
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