十二丁・表(画像) 十二丁・表(テキスト) 十二丁・表
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あらず。ことに百姓は、代々相伝へて其業をなすなれば、別して御恩(おん)を蒙(こふむる)ことふかし。 爰を勘弁して、疎略(そりやく)あるべからず。
○宗像(むなかた)郡、武丸(たけまる)村の正助、はじめは所の者ども、かれが至孝(しいかう)なるを知らず、愚(おろか)なる者とあなどり、 公役を代(かはり)て勤(つとめ)くれよと頼に、幾度(いくたび)にても、忝し、御上の御用を勤は、我が身の幸、ありがたき事なりとて、 快(こころよ)く代りつかはしけるが、後には、皆恥て、かゝる事無かりしとかや。
凡、世をわたるいとなみ、人あしかれとは思はずとも、我能かれと思へば、人の幸を悦ぶ事のうすきもあるに、百姓の業は、彼(かれ)能かれ、 我も能かれと思ふなれば、人の為に謀(はかる)の忠にも叶ひ、菩薩の行にもかなへり。 しかれば、我苦労して、人の辛苦をたすける志を、本意とはすべし。