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子孫に伝ふべき謀、専要なるべし。 町家の軒をつらね、甍(いらか)をならべ、その栄をあらそふや、身をしぼりて財をあつめるには、さま/\の術(じゆつ)をつくし、ぬすみこそせね。 人に偽り、世を欺(あざむ)き、或は主人の家の亡をもたすけず、却てその虚に乗(ぜう)じて己が益とし、信友の滅(めつ)するをも救(すく)はず、 利欲(りよく)に恥を忍て持ち貯(たくは)へたる財宝(ざいほう)の、逆ひて入てさかひて出の天理、いかで其咎(とがめ)のがるべき。 親が辛苦(しんく)して儲(もふけ)溜(ため)たる汗血(かんけつ)の財を、吾は何とも思はず、親が存生(ぞんしやう)の中は許(ゆる)さぬゆへにこらへ/\たる偖侈(おごり)、 初七日の法事より酒宴(しゆゑん)を始め、つかひ捨るは手間隙いらず。 そろ/\借家(しやくや)から売はじめて、蔵も本家もみな消々(きへ/\)て、孫の代まで続かぬを、五十年の夢(ゆめ)の覚(さめ)ぬ中にいかほどぞや。 |