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「はじめに」 松本一郎 『筑豊の炭鉱札』 私家版 1988年 

   炭鉱札(券)は、ヤマの経営者が発行した私製の札で、炭坑によってはその種類や取扱いにわずかの相違が見られるが、大体大同小異で、現金の代りとして支払われた。炭札、斤券、炭券、切符と言い、炭坑によって印刷が違い、毛筆書から版木刷り、石版刷、銅版、印刷まで各種まちまちである。明治初期頃炭坑が手掘りの小規模の頃は、鉱夫が少なかったためか、労賃(賃金)は紙片に毛筆で記し、発行者印又は鉱主印を押印した簡単な券や、米券を発行した日書の証券で、その券は油や米などの日用品購買に使用して現物給付するところもあった。
   切符ともいわれたこの炭鉱札は、本来坑夫の仕事量、つまり出炭量に応じて交付されたが、採炭夫以外の稼働者(間接夫・日役)に対しても、一斤が一厘、百斤券が十銭、千斤が一円ときめて引換ることとし、現金の代りにこの券を交付した。一斤券から千斤まで斤別に、小型券から大型券まで五種類、多い所は九種類にも及び、千斤以上の券も出されていた。毎月交換日を定め、現金と引換られたが、経営不振の炭坑では、実際には炭坑直営の分配所(売店)か、炭坑指定店と通用を限定して商品券なみの取扱いで通用させたところもまた多い。