知識のフロー化

図書館長 永星浩一

 今回、紙媒体の図書館報が廃止され、Web版となって最初のご挨拶を申し上げます。どうか、引き続き福岡大学図書館をご活用頂きますようお願い申し上げます。

 ここ2年半のコロナ禍で、リモートによるアクセスの便宜を図る意味もあって、福岡大学図書館は、事業計画にも挙げている「電子媒体の充実」に努めています。昨年度も各学部の先生方のご協力で多くのタイトルを「購入」しました。紙の本は「資産」に計上されます。一方、電子媒体の場合、追加で支出の必要のない電子ブックは「資産」として登録され、電子ジャーナルやデータベースなど、毎年支出を伴うものは「消耗品」とされます。実際、後者は契約を更新せず支出をやめてしまうと、期限切れと同時に全てのコンテンツにアクセスできなくなってしまいます。もっとも、前者であっても書店のパンフレットには「データベース」と表現されているものもあり、何が資産で何が消耗品か、概念と用語の整理を行っていく必要に迫られています。

 さて、管理上の分類や表現上の問題はおくとして、ここでおさえておく必要があるのは、紙の本には「所有権」があり、財産として相続の対象であり、古本屋やネットで売ることができ、友達に貸すことも、図書館に寄贈することもできるということです。他方、電子媒体への支出によって獲得されるのは、クラウド上のコンテンツへのアクセス権、すなわち「使用権」であり、紙の本とは異なるものです。ソフトウェアのライセンス契約と同様です。現状では、その権利を他者に売ったり譲ったりすることはできませんし、そのサービスを提供している企業の都合で停止されることもありますし、倒産などで営業が継続できなくなった場合、「購入」した無数の電子媒体は(電子ブックであれデータベースであれ)最悪の場合、すべてアクセス不能となってしまいます。

 いま、消費行動が「所有から使用へ」の流れの只中にあります。サブスクリプションによって、動画や音楽の配信、車や自転車のシェアに至るまで、モノを「所有」せず、必要に応じて「サービスを使用するコト」を保証する消費の形態です。デジタル経済の進化の中で、動画や音楽、そして書籍がアナログの媒体を必要とせず、コンテンツそのものが使用される時代になったといわれます。しかしながら、それらを使用するためには、電力の供給が確保されネットにつながったスマホやPCといった機器を必要とします。デジタル情報をアナログ情報に変換してくれるそれらの端末を通してしか、私たちは知識や感動を得ることができません。

 もちろん、機器が不可欠であるとはいえ、電子媒体から得られる利便性は(研究分野によっては)大変大きいものです。論文雑誌を探すとしたら、図書館に足を運んで製本された雑誌を探し出して、必要箇所をコピーして持ち帰るという、時間のかかる一連の作業が、すべて自室のパソコンの操作で、ものの数分で済んでしまいます。私たちはその便利さを手放すことはできないですし「所有から使用へ」の流れは、もはや後戻りできない所まで来ています。ただ、電子機器からほぼリアルタイムで情報を引き出せることは、しっかりInputし記憶にとどめるという手間を省く傾向を人々に植え付けています。ググればわかるから覚えようとしないわけです。学生の皆さんには、ネット情報ばかりではなく、面倒でも紙の本で情報を得るという経験を積んでいただきたいと思います。情報は、求められたときにクラウドから機器を通じて直接Output(出力)されるのではなく、一旦、知識として自分の頭にInput(入力)した上で、話し言葉や書き言葉でOutputされるべきです。例えば質問をするとすぐにスマホで調べ始める人がいます。そしてスマホの画面を見ながら自分の知識であるかのように答えるのです。そのときは、一旦「知りません」と答えてから調べるべきでしょう。入力なき出力は知識の外部委託にほかなりません。

 映画監督の黒澤明氏はインタビューに答えて「創造とは、“記憶”である」と述べています。何も無いところから有は生まれない。創造的な仕事は、本を読むことから始まると。このインタビューは古い時代のものですが、電子ブックを読むことからでもこれは達成できるでしょう。しっかり読んでInputして記憶する(自分のものにする)ことこそ重要です。

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