19.[絵本勇士子【えほんいさみじし】]
恵斎の兄弟子でもある戯作者・山東京伝(北尾政演)が序(計一丁半)を
寄せており「(前略)凡【およそ】獅子の尊【たっとき】ことあげてかぞふべからず。書肆文刻堂の主人、
自此【みずからこの】画本を勇士子【いさみじし】となづけるも、士子は獅子の響【ひびき】をかり、
猛将勇子【もうしょうゆうし】のいきほひある、画者の筆意の猛々しきを、獅子のいさむにたとふるの意
【こころ】なるべし(後略)文化庚午孟冬 江戸醒醒斎京傳識(印)」と記す。
内容は24.『略画式』(九丁裏・下左図)でも
おなじみの股野(景久と真田与市の巨石投「恵斎と秋圃図柄 ・筆法の模倣」参照)
からはじまって、
敦盛と直実、巴御前といった女武者も含まれ、八幡太郎義家まで、源平の合戦の勇者を中心に物語の十四
場面を紹介する。彫は、一連の略画式モノと同様、春風堂野代柳湖刻だが、武者や人物は略画ではなく精緻な
筆法で描かれ、背景には狩野派風の樹木等もみられる。全丁絵が中心で仮名が中心の平易な文を添える構成で
あるため、子供むきの絵本として刊行されたか。本書以外の伝本は未詳。