21.八幡太郎一代記 繪盡
【はちまんたろういちだいき えつくし】(外)
薄縹色桐花葉地紋の表紙を持つ五冊本。五巻末奥付刊記に板元と彫工、
そして「庸画 紅翠齋門人 北尾恵斎政美(印)」と恵斎の名もみえるが、刊年未詳。
漆山又四郎氏によると、天明二年の項に「絵本八幡太郎一代記 五巻 仙鶴堂」(『絵本年表』)と
ある一方、柱刻が「奥州軍記」であるためか「奥州軍記 十巻 万象亭作、北尾政美画」(『国書総目録』)
とある。あるいは改題本も存在したか。
「月池隠士 万象亭述」(初代・森羅万象)の序文(半丁)は
「此前九年の粉本【えほん】は、画工政美が神に迫るの丹青【たんせい】にして、殺気天を翳【かす】め
紅波【こうは】楯を流す血戦【けっせん】の形勢【ありさま】を目下【まのあたり】に歴然【れきぜん】
たらしめ見る人をして古人【こじん】の猛勇【もうゆう】を欽慕【きんぼ】せしむるは治世【ちせい】に居て
武を励【はげま】しうするの一助【いちじょ】たるものか。武人【ぶじん】の子須【すべから】く翫【もてあそ】ぶ
べくして可なり」と、本作の舞台が前九年である事を記すと同時に、恵斎の画が真に迫っていることを賞揚する。
本文の画面構成は絵が主体の黄表紙風。物語は朱雀院期の長暦元年、相模守源頼義が結婚し岩清水八幡宮に詣でる
所から始まり、五巻末、康平六年二月に源頼義、義家、義綱、清原武則が将軍に謁見し、頼義は従五位下・出羽守を
仰せ付けられ、それぞれに勲功を頂く場面で幕を閉じる。