教科書をつくる

法学部図書委員 生田敏康

 近時、学部学生向けの教科書を執筆する機会があった。法律文化社から刊行された拙著『債権法入門』(2021年1月)である(同社からは法学部の他の教員との共著になる『民法入門』(初版2017年、第2版2021年)と『民法総則』(初版2018年、第2版2022年)も刊行されている)。ここでは大学教員にとって教科書を作成する意義について考えてみたい。

 大学教員の任務は教育と研究である。教科書は授業の必須かつ有益な学習ツールであり、また、その学問領域についての知識・情報にアクセスできる窓口でもある。それゆえ教科書の作成が教育活動にとって十分意義のある行為であることはいうまでもない。

 一方、大学教員の研究活動はいかに優れた学術論文を書いたかによって評価され、そこでは独創性が要求される。すなわち先行業績に対してどれだけ新規の知見を付加したかが学術論文の価値を決める。これに対し、教科書は独創性よりは読者にその学問領域の知識や情報をわかりやすく伝えることが重視される。したがって教科書の作成は一般に研究活動にとって不可欠または重要な要素ではない。現に教員の採用選考・昇格審査にあたって教科書類は業績審査の主たる対象とはされず、せいぜい参考資料の扱いを受けるにすぎない。

 では教科書の作成は研究活動にとっては意味がないかというとそうではないと考える。教科書を執筆するにあたってはその分野に関する基礎的知識・情報を入手・習得しておかなければならない。法学の分野でいえば、法令、判例、学説がそれにあたる。当然ながら教科書が対象とする項目のすべてが執筆者の専攻分野内であるとは限らず、得意とはいえない分野についても調査して書かなければならない。しかし、そうした作業によって全体の中での自分の研究の位置を確認することができ、また、新たな観点から研究上のヒントや刺激を与えてくれるのである。

 拙著『債権法入門』の執筆にあたっては、関連法令の改廃をチェックし、既刊の教科書・体系書および関連判例を渉猟した。大変ではあったが、楽しくかつ充実した作業であった。本書は入門書であるので、内容において独創的なところはほとんどない。しかし、読者にわかりやすく伝えるための工夫をこらしている。執筆開始から刊行まで1年余を要したが、出来ばえははなはだ心もとない。ただ、製本されたものを受け取ったときの感慨は格別のものがあった。

 なお、本書が本学図書館に収蔵されたのは刊行からかなりの期間が経ってからであった(それも著者寄贈という形でなかば無理に収蔵してもらった)。また、他大学では大学や学部のホームページで所属教員による新刊図書を積極的に紹介しているところもある(本学図書館ホームページにも教員が寄贈した自著を紹介する「教員著作図書」のページがあるが、注意して探さないと気づきにくい)。些細なことではあるが、こういう面でも教育・研究活動をサポートする態勢があればと思う。

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