癒しの空間

法学部  新屋 達之

 1 尾籠な始まりで申し訳ないが、筆者の先輩が、「図書館の書庫に入室するとトイレに行きたくなる」ということを今は昔の大学院時代に話していた。そういえば、筆者もそんな感じがしたものである。どなたか失念したが、ある作家も、書店に行くとそうした気分になる、書店には独特のヒーリング効果があるからだろうと述べていたように記憶している。図書館でもそれは同様なのであろう。
 トイレの中では、人は誰でも無防備な状態となる。無防備な状態となる以上、そこは安全・安心が担保された、癒しの場所でなければならない。トイレと図書館や書店を一緒くたにするなという批判はあろうが、図書館や書店が人を癒す場であるがゆえに、見えない鎧から解放されるきっかけとなるのだろう。

 2 図書館や書店がなぜ癒しの空間となるのだろう。1つ目 には、喧騒から解き放されていること。これは必須の条件である。2つ目 には、新旧を問わず書物の有している独特の香りがもつ癒し効果であろう。3つ目 には、なかなかお目にかかれない書籍がすぐ目の前にあるとか、著者署名本(ないし、著者のサイン色紙)があるとか、最近は見かけないであろうが、とっくの昔に退職されたはずの〇〇先生の図書借出票が残っているとか等々の事実である。これらは、その書籍や著者、写真でしか知らない〇〇先生をリアルに実感できることでもある。
 バーチャル・リアリティでない現実、しかも、それがどぎつさを持たずに静かに語りかけてくる。そういったことが図書館などのヒーリング効果に繋がっているように思える。

 3 社会全体でDXの進行する中、書店の減少が取りざたされ、図書館も様々な形での電子化が進められている。それ自体は歴史の趨勢であると同時に、様々な恩恵を生み出していることも事実である。
 しかし他方、デジタル化は無機的な性格を多分に有している。それに人は耐えられるのか。安易なデジタル化一辺倒でなく、デジ・アナの両刀使いこそが望ましいのでないか。書店でも同様だが、特に知識の累積と継承を仕事とする図書館は、両刀遣いの場であってほしい気がする。そしてそれにより、これからも癒しの空間であってほしいものである。

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