今はもう無い「書庫」という場所

人文学部図書委員 山根 直生

 現在の福岡大学中央図書館は2012年に完成しました。200万冊以上の蔵書、貴重書庫や特設文庫を備えた堂々たる施設です。いち教員である私にとっても、他の大学から研究者の来訪があった場合には必ず案内する、誇るべき福岡大学の財産と言えるでしょう。

 一方で、かつての中央図書館にはあって今の図書館にないものが、「書庫」(貴重書庫のそれとは異なる)という場所でした。現在の自動書庫がない時代には、学部生は基本的に立ち入りできず、教員や大学院生だけが記名した上で入室できる、非常に広大な空間が図書館内にとられていたのです。誰でも自由に往来して棚から手に取れる「開架図書」の逆で、「閉架図書」だけが置かれている「閉架書庫」という言い方もありました。請求記号その他を頼りに、薄暗く、棚また棚の並んだそこから自分で本を探し出すのは、半日あるいは一日中かかっても不思議ではないよう大仕事でしたが、しかし、そこでの本探しはどこか心躍る作業でもありました。

 その一冊の内容がまさしく探し求めていた手がかりだった!という以外にも、探し求めていた一冊の傍らに、何やら興味深い題名の本が偶然にも見つかった、文章執筆そのものに行き詰まっていたのに、書庫巡りをしていたらなんとなく突破口となるフレーズを思いついたなどなど。少し非日常な空気のあるそこから、思わぬ果実がしばしば得られていたものだったのです。またそうした本探しの作業に習熟することは、教員か院生かを問わず、いち研究者として少しばかり誇りを感じることでさえありました。

 もちろん現代ならではの自動書庫やインターネットでの検索、ダウンロード機能はたいへん便利であり、私自身も活用しているその快適さをいまさら否定するつもりは全くありません。それでもかつてこのような身体的な一手間のなかに、研究上の予期せぬ手がかりがたしかに転がっていたのでした。いま、明るく広々とした開架図書の棚のあいだを快適に泳ぎながらも、そうした時代の研究の面白さを今に伝える方法はないものかな、と、時おり考えてみるのです。

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