私は現在、自学科の一年生を対象に、論理的な文章を書く演習授業を数名の教員と共同で担当している。レポートや卒業論文を執筆する上で、理系の学生にとっても論理的に書く力は不可欠なスキルである。その基礎として授業で一貫して扱っているのが「パラグラフ・ライティング」である。結論を先に示し、それを客観的な根拠で支える構成を、私は「自明の正解」であると思い込んでいた。
その思い込みを大きく揺さぶったのが、渡邉雅子『論理的思考とは何か』(岩波新書、2024年)である。本書によれば、論理的であるとは普遍的な基準があるわけではない。それは「読み手にとって記述に必要な要素が読み手の期待する順番に並んでいることから生まれる感覚」であると定義されている。それぞれの文化には、特徴的なパラグラフの順番が存在する。例えば、結論を先に述べていくスタイルは、欧米共通だと思い込んでいたが、実はアメリカとフランスでは論証の作法が全く異なる。本書では、そうした具体的な事例が詳しく紹介されている。
とりわけ驚かされたのは、標準的な型として授業でも扱っている「五パラグラフ・エッセイ」の来歴である。これは1970年代のアメリカで、高等教育の大衆化に伴い、大人数の学生に効率的に書かせる方法として考案され、教員が効率的に評価できる利便性から広まったものだという。私が「正解」として捉えていた構成は、実は特定の歴史的背景と利便性から生まれた一つの型に過ぎなかったのである。
さて、本書との出合いのきっかけは「ゆる言語学ラジオ」というYouTube番組である。ことばにまつわる話題を軽妙に掘り下げるこの番組を視聴していたところ、渡邉氏の専門書が紹介されていた。興味を持ち当館の蔵書検索で調べてみると、本書に「人気あり」という赤字のラベルが表示されていたので、そちらの方を読んだのである。かつては新聞の書評欄や書店や図書館を徘徊する中での偶然が、本との出合いの王道だった。だが、YouTubeと図書館の検索システムといった現代的な出合いもあってよいだろう。
