本との関わり

工学部化学システム工学科 加藤 貴史

 図書館コラム執筆を引き受けるにあたり、これまでの自身と本との関わりを考えてみた。自分は読書家とは言い難い。自ら進んで本を読むというよりは、誰かに、あるいは何らかの事情で、読書を強いられてきた経験の方が多いと思う。幼い頃は、母親から本をあてがわれていた。誕生日プレゼントとして本を何冊も貰ったが、正直、嬉しくはなかった。そういった本は、小学校の読書感想文の題材などとしてイヤイヤ読むことになったのだが、本との関わりをもつ契機になったのは事実だ。中高生になると、なぜか、戦記物や歴史小説を自ら手にするようになった。太平洋戦争を生き延び不死身と言われた潜水艦長や義足の戦闘機パイロットの回顧録などを読み、大変な時代があったのだといろいろ思いを巡らせたものだ。大学受験の頃は、共通一次試験(今の大学入学共通テストみたいなもの)の現代国語対策も兼ねて、文学小説も読むようになった。行間を読めるようになると、試験の得点が上がったのを覚えている。

 大学で働くようになると、手に取るのは専門書ばかりになった。一般書からは疎遠になって久しいが、今も手元に置いている唯一の書籍を紹介したい。教員になって以降、最も興味をもった本かもしれない。『闘うプログラマー』(G.パスカル・ザカリー 著)という1994年に日経BP出版センターから発行されたノンフィクションの訳本(上下巻)で、現在、広く利用されているWindows 11の源流ともいうべきOS(Windows NT)の過酷な開発物語だ。マイクロソフトの“死の行進”と言われたこのプロジェクトは、デビッド・カトラーという異端のリーダーのもとで成し遂げられた。カトラーは仕事人間の極みで、労働と余暇、家庭と職場を区別しない。昭和の“猛烈社員”のようなワーカホリックが海外にも存在し、その強烈なリーダーシップが次世代OSを世に解き放つ原動力になった。ワークライフバランスが重視される令和の時代ではあり得ないようなプロジェクトだが、それが今に繋がっていると思うと感慨深い。また、技術開発の裏に隠れた人間模様など、現場のリアリティに触れられるのも本書の魅力だ。機会があれば、皆さんにも手に取ってほしい。当たり前のようにある技術の深淵が垣間見えると思う。

『闘うプログラマー』

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