W・モリスのケルムスコット・プレス


1.ウィリアム・モリス 『輝く平原の物語』

副題:その地は生ける人々の国、もしくは不死なる者らの土地とも呼ばれる

1891年/ハマスミス刊/Flower(1)/小型4折判(200×140mm)/ゴールデン活字ボーダー1番紙刷り(200部):2ギニー [ヴェラム刷り(6部):うち4部は非売品、1部は12ギニー、もう1部は15ギニー]
Morris, William -- The Story of the Glittering Plain Which has been Also Called the Land of Living Men or, the Acre of the Undying. 188 pp.Hammersmith : Kelmscott Press, 1891.
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『輝く平原の物語』   平穏なクリ―ヴランドの浜辺から許婚のホスティッジを誘拐した海賊を追って、大鴉一族のホールブライズという若者は婚約者探索の旅に出る。海賊たちの住む島(ランサム島)へ、そして不死の王が支配する輝く平原の国へと探索の旅は続く。モリスが生涯のテーマとして追及した「地上楽園」をめぐる愛と冒険の散文ロマンスである。
   モリスは散文ロマンスを10編書いた。『ジョン・ボールの夢』(1886‐87)、『ウォルフィング族の家の物語』(1888)、『山々の根』(1889)、『ユートピア便り』(1890)、『輝く平原の物語』(1890)、『世界のかなたの森』(1894)、『チャイルド・クリストファとうるわしのゴルディリンド』(1895)、『世界のはての泉』(1896)、『不思議な島々のみずうみ』(1897)、『サンダリング・フラッド』(1897)の10編である。
   『輝く平原の物語』は5番目に書かれた作品である。モリスは 当初The Golden Legend をケルムスコット・プレス最初の出版物にしようと考えていたらしい。ところが、バチェラー (Batchelor) がプレスに納入した印刷用紙の大きさが『黄金伝説』用としてはモリスの気に入らず、小型版にして『輝く平原の物語』を刷る結果となった。このケルムスコット・プレス版は『イングリッシュ・イラストレイティッド・マガジン』1890年6月号から9月号に連載されたもの(多少の変更有り)を底本としている。1891年1月31日に刷った試し刷り1頁が文字通りケルムスコット・プレスの初仕事となった。モリスは1891年1月にこの版本用の縁飾り(ボーダー1番)をデザイン、W. H. フーパーが彫板を担当した。モリスは、はじめ本の挿絵の仕事をクレインに持ちかけたが、ケルムスコット・プレス最初の作品となる『輝く平原の物語』の出版をとても急いでいたので挿絵を待ちきれなかった。出来上がった作品はいたってシンプルなものとなったが、数年後に全く同一作品を再び、今度は挿絵入りで印刷出版することになる。(No.22を参照)同一作品を二度印刷したのはケルムスコット・プレスではこの作品だけである。W・モリス著/小野悦子訳 『輝く平原の物語』 (晶文社/2000 )の邦訳がある。(前田雅晴)