W・モリスのケルムスコット・プレス


51.ウィリアム・モリス 『引き裂く川(サンダリング・フラッド)』

1897年[1898年]/ハマスミス刊 /Flower(2)8折判(200×140mm)チョーサー活字ボーダー10番紙刷り(300部):2ギニー [ヴェラム刷り(10部):10ギニー]
Morris, William -- The Sundering Flood. 507 pp. Hammersmith : Kelmscott Press, 1897 [publ. 1898].
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『引き裂く川(サンダリング・フラッド)』 大河サンダリング・フラッドに文字通りその仲を引き裂かれている (sundering) 青年オズバーンと美しい乙女エルフヒルドの恋と冒険の物語である。ある近代アイスランド小説からアイデアを採り、2度のアイスランド訪問や北欧伝説などに触発されたモリス最後の散文ロマンスである。1895年12月に書き始め、死のおよそひと月前の1896年9月初旬、病床で結びの言葉をコッカレルに書き取らせた。「オズバーンとエルフヒルド、仮面を脱ぐこと」の章(ケルムスコット版では63章、娘メイ編集の著作集では65章)に入れる予定の歌は未完に終わった。内表紙に付けられたクリップ作成の地図はウォーカー・アンド・バウタル社によって線画凸版で印刷されたものである。もともと地図は内表紙にではなくて本の本体に入れるはずであったが、地図と本文1頁とが様式や釣合いや色合いの点で調和がとれない、ということで熟慮の末に内表紙に貼り付けられることになった。予想通り批判はあった。1897年5月試し刷り、11月に印刷完了、翌1898年2月25日刊行された。同じ時期にロングマン社より普及版も出版された。W・モリス著/中桐雅夫訳『サンダリング・フラッド』(平凡社ライブラリー,1995)の邦訳がある。(前田雅晴)