W・モリスのケルムスコット・プレス


10.ウィリアム・カクストン訳『狐のレナードの物語』

1892年/ハマスミス刊/Flower(2)大型4折判(290×212mm)トロイ活字(本文)・チョーサー活字ボーダー5a・7番紙刷り(300部):3ギニー[ヴェラム刷り(10部):15ギニー]
Caxton, William (trans.)-- The History of Reynard the Foxe. v, 162 pp. Hammersmith : Kelmscott Press, 1892.[publ. 1893] 所蔵情報へ所蔵情報

↓クリック(詳細画像/約290KB)
『狐のレナードの物語』

 12世紀後半から13世紀中頃にかけて北フランスで作られた寓話詩の一変種である。単一の作者の単一の物語作品ではなく、複数の手によるそれぞれが独立したしかも多種多様な筋立ての「枝編」の総称である。主人公の狐レナードを軸に、宿敵の狼イザングラン、獅子ノーブル、雄鶏、鴉に熊など様々な動物たち、時には人間までも登場。それぞれの動物は人間の性質を細かく写実するのに利用されている。レナードの数々の悪巧み、宿敵イザングランとの反目、動物の裁判など、いろいろと愉快なエピソードが自由自在に語られる。武勲詩や宮廷風騎士道物語のパロディーも時折盛り込まれ、封建社会に対する痛快な諷刺ともなっている。ケルムスコット版にはキャクストン版(1481年初版)がそのまま用いられている。モリスは、クォリッチ (Bernard Quaritch) のカタログで、このキャクストン版について彼の翻訳は文体の点でとても優れており彼の作品中最良のものの一つだ、と言っている。Early English Text Society (初期英語テキスト教会)版の『狐物語』を編纂したブレイク (N. F. Blake) は、キャクストン版の本文テキストの不正確さを指摘している。しかし、オランダ語からのキャクストン訳は19世紀の幾つかの訳と同じくしばしば復刻された。W・キャクストン訳/木村建夫訳『きつね物語』(南雲堂,2001)の邦訳がある。(前田雅晴)