W・モリスのケルムスコット・プレス


42.『聖処女マリア讃歌』

1896年/ハマスミス刊/Perch大型4折判(290×212mm)トロイ活字紙刷り(250部):10シリング [ヴェラム刷り(10部):2ギニー]
-- Laudes Beatae Mariae Virginis. 34 p. Hammersmith : Kelmscott Press, 1896. 所蔵情報へ所蔵情報

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『聖処女マリア讃歌』本書のコロフォン(奥付け)によると、13世紀初頭に英国中部出身の写字生により書写された「詩篇集」(Psalter)にもとづく詩集とある。モリスがテキストを得たのは彼が1893年に115ポンド(280万円相当)で入手して「ノッティンガム詩篇集」(Nottingham Psalter)と呼んでいた13世紀初頭の彩飾写本からで、それは彼が所有する英国の写本の中で最も美しい書体と装飾を伝えていた。それを髣髴させるかのように、本書はケルムスコット版では初めての赤青黒の三色刷りになっている(他に三色刷りされたのは『恋だにあらば』No.52のみ)。
なお、本書刊行後に工房から配布された「ノ-ト」によると、カンタベリ-の大司教も勤めたスティ-ヴン・ラントン(Stephen Langton, ?-1228)に帰せられる『聖処女マリア讃歌』(Psalterium Divae Virginis Mariae)の1579年版とテキストが一部において一致する旨の指摘を受けた由である。(藤井哲)

 左頁、右頁ともにラテン語なので、以下に和訳を添えておく。

[左頁]

おお驚異に満ちたものよ、おお諸事物の革新よ。
最高の神性は人間を身にまとい、
母の豊穣さは処女において輝き、
その処女性は尽きぬ光を伴って芽吹く。

これは最高に褒め称えられること。
処女である主の御母が女王となり、
約束された喜びを世界にもたらす。
声が天からの知らせを教えたとおりに。

だからわたしは天の知らせによって学んだ。
神秘なる秘密の隠れ家を。
挨拶のことばをわたしは申し出る。
御母を通して御子に、御子を通して御母に。

喜びたまえ、受けたまえ。御母よ。わたしが捧げるものを。
わたしが急げば急ぐほど、わたしを海岸にふれさせよ。
わたしが海の渦を越えていくときに、
その他の点ではわたしが静かに生きられるように。

そしてまた、すべての人に、罪の許しを。
その人たちのために、わたしは懇願しつつ祈りを注ぐ。
等しくわたくしたちと彼らの名を、
あなたが生命の書に記し給うように、と。 

(右頁)

『詩篇』1:いかに幸いなことか。神に逆らう者の計らいに従って歩まない人は
めでたや。処女の中の処女、夫なき母よ。
男の種なしに豊饒にされるに値する方よ。
わたしたちに主の法を繰り返し思索させ、
そしてわたしたちが王国の栄光において祝福されるようにしてください。

『詩篇』2:なにゆえ国々は騒ぎ立ち、人々はむなしく声をあげるのか
めでたや。その子宮が男の子を生んだ者は。
その滅びに向かって国々が騒ぎ立つ者は。
あなたを敬虔に探し求めている嘆願者たちの声を聞いてください。
わたしたちが作りだした悪の諸原因を取り除きつつ。

『詩篇』3:主よ。わたしを苦しめる者は、どこまで増えるのでしょうか
めでたや。処女よ。聖なる独身の鏡よ。
その子宮から男の子がわたしたちに産まれた人よ。
その方は、死人に同情し、死によって眠らされ、
死によって死を終わらせ、罪を贖う方である。

『詩篇』4:呼び求めるわたしに答えてください。わたしの正しさを認めてくださる神よ
めでたや。生まれた男の子の娘よ。産ませる者の母よ。
慣れ親しんだ習慣の掟に逆らって産む者よ。
わたしたちをより善き生の状態へ戻してください。
こんなにも長い間、空しい誤りがわたしたちを捉えているのです。

『詩篇』5:主よ。わたしの言葉に耳を傾け、つぶやきを聞き分けてください
めでたや。わたしたちをエジプトの汚土から買い戻してくださり、
あなたは悪徳で一杯になった者を助けようとしてくださいます。
あなたは、わたしたちを善き意志の盾で守りつつ、
栄光で包まれたものたちを安全な場所に置いてくださいますように。

『詩篇』6:主よ、怒ってわたしを責めないでください。憤って懲らしめないでください
めでたや。生命の扉、悔悟者の救いよ。
病む者の心の悲惨に目を向けてください。
告発する者の声を、わたしが怒りの中で感じることがありませんように。
わたしを罪と同時に苦しみからも自由にしてください。
(上枝美典訳)