W・モリスのケルムスコット・プレス


30.エリス編 『侮罪詩篇』

1894年/ハマスミス刊/Flower(2)8折判(200×140mm)チョーサー活字紙刷り(300部):7シリング6ペンス [ヴェラム刷り(12部):3ギニー]
Ellis, Frederick Startridge (ed.) -- Psalmi Penitentiales. 63 pp. Hammersmith : Kelmscott Press, 1894. 所蔵情報へ所蔵情報

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『侮罪詩篇』奥付によると1440年頃グロスターで書かれたものとなっているが、英語学者スキートによると、それより一世紀くらいは古い、ケント方言の手稿から写字生が写したものだろう、としている。いずれにしても中世時祷書の悔罪の詩篇をF. S. エリスが編集したものである。ケルムスコット版として印刷出版するにあたって、編者エリスとモリスとで編集上の方途をめぐって何かと意見の違いがあったらしい。1894年11月2日付のモリスのエリス宛手紙の中で、例えば、近代英語の ‘th’ にあたる古・中英語の ‘pのたて棒の上から左下に向けて払いがついた文字’ のような文字・語が必要で、そういう工夫が出来なければ読者を満足させる古・中英語作品の近代語への翻訳はできない、といった旨のことを述べている。
 「悔罪詩篇」は、罪を悔やむ気持ちを表すために初期教会から用いられてきた七つの詩篇で、必ずしもきれいに一致するものではないが、現行の章割りに当てはめれば旧約聖書中の詩篇6、32、38、51、102、130、143である。詩篇各連の頭には、ラテン語の詩句が赤色で印刷されている。本文34頁に見られる三方縁飾りはケルムスコット・プレス出版物のうちこの作品に初めて登場するものである。モリス夫人は出版物のことを口にすることはなかったようであるが、Psalmi Penitentiales に関しては珍しく感想を漏らしている。「チョーサー作品集と同時に小さな書物が幾冊か印刷中です。中世の『悔罪詩篇』がその一つで、とても素敵です。赤がふんだんに使ってあります。こんな愛らしい本は、いつの間にか売り切れになってしまうのではと気になります」とブラント(Wilfrid Scawen Blunt)に書き送っている。(前田雅晴)