W・モリスのケルムスコット・プレス


41.ウィリアム・モリス 『地上楽園』(全8巻)

1896-1897年/ハマスミス刊/Apple中型4折判(235×155mm)ゴールデン活字ボーダー第1巻:27a・27・28a・28番、第2巻:29a・29・28a・28番、第3巻:30a・30・27a・27・28a・28・29a・29番、第4巻:31a・31・29a・29・28a・28・30a・30番、第5巻:29a・29・27a・27・28a・28・31a・31番、第6巻:27a・27・30a・30番、第7巻:29a・29・31a・31・30a・30・27a・27番、第8巻:28a・28・29a・29番紙刷り(225部):各巻30シリング [ヴェラム刷り(6部):各巻7ギニー]
Morris, William -- The Earthly Paradise. 8 vols. [193 pp. ; 121 pp. ; 169 pp. ; 241 pp. ; 217 pp. :203 pp. ; 186 pp. ] Hammersmith : Kelmscott Press, 1896-1897. 所蔵情報へ所蔵情報

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『地上楽園』 この『地上楽園』は当時の一般読者層からも歓迎されたモリスの代表的物語詩で、彼の最高傑作の一つである。「序詞」と24の物語からなる作品で、「序詞」によれば、ヨーロッパのペストの大流行を逃れて地上の楽園を求めた北欧人の一隊が楽園発見には失敗したが放浪の末に古代ギリシャ文明が今も残る遠い町にたどり着く。町の古老が彼らを手厚くもてなすが、月2回の饗宴の席で旅人達は歓待のお礼に物語を語る。古老たちもその返礼に物語をする。それが1年間続いて24編。24編のうち12編は北欧その他の中世物語、残りの12編は「キューピッドとサイキ」などの古典物語という趣向である。各月の初めにその月を主題にした抒情詩を挿入、春夏秋冬のイギリスの自然が歌いこまれ、同時にモリスの自伝的要素が織り込まれている。モリスは妻とロセッティの恋愛関係に懊悩していたが、そうした彼の心情の吐露が、例えば9月の詩の中に窺われる。
 『地上楽園』は1868年から70年にかけて初出版された。1860年代に既にバーン=ジョーンズの挿絵入り特装版の構想を抱いていたが、その時点では実現されなかった。それまで複数巻で出版されたものの改訂版が1890年に一巻本で出版されたが、ケルムスコット版はこれを底本にしたものと思われる。判型が問題で、これまでにない新しい判型にしようと考えた。4折判と8折判の中間をと思案したがモリス自身大いに悩んだらしい。4折判ではあるが8折判風にも見えるという新しい判型が気に入った、というコッカレルの意見が決め手になり一件落着した。りんごの透かし模様入りの紙がこの本で初めて使用された。10点の縁飾り、各月を詠んだ詩を囲む半縁飾り4種はこの作品にのみ使用された。モリス生存中に仕上がったのは第3巻まで。従って第4巻の奥付には、それまでの ‘Printed by William Morris at the Kelmscott Press’ ではなく‘Printed by the trustees of the late William Morris at the Kelmscott Press’ と記されている。この作品の全訳はないが、矢口達訳『地上楽園』(國際文獻刊行會,1926)の抄訳がある。「12月」「1月」「2月」部分の邦訳である。(前田雅晴)