W・モリスのケルムスコット・プレス


22.ウィリアム・モリス 『輝く平原の物語』

副題:その地は生ける人々の国、もしくは不死なる者らの土地とも呼ばれる

1894年/ハマスミス刊/Perch大型4折判(290×212mm)トロイ活字(本文)・チョーサー活字ボーダー12a・12番紙刷り(250部):5ギニー [ヴェラム刷り(7部):20ポンド]
Morris, William -- The Story of the Glittering Plain which has been Also Called the Land of Living Men or the Acre of the Undying. 177 pp. Hammersmith : Kelmscott Press, 1894. 所蔵情報へ所蔵情報

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『輝く平原の物語』 ケルムスコット・プレスの記念すべき初出版物(『輝く平原の物語』(No.1))と同一作品の2回目の印刷である。最初の刊本は装飾がほとんど施されていない簡素な造りのものだった。この新版は最初のものと比べて様々な工夫が施されている。先ず何よりウォルター・クレインの手になる23葉の挿絵が加えられ、モリスのデザインになる縁飾り、頁の装飾、章のタイトルは赤色印刷するなど、幾つもの新味が加えられている。また、最初の刊本はゴールデン活字であったが、新版本文はやはりモリス自身のデザインになるトロイ活字で組まれている(目次部分はチョーサー活字)。 底本として用いられたのはリーヴズ・アンド・ターナー社出版の1891年版。クレインに持ちかけた挿絵の話もそのままに、とにかく出版を急いだ初回の『輝く平原の物語』だったが、その後モリスはクレインに再度挿絵の仕事を依頼した。新版の『輝く平原の物語』による利益は、モリス、クレインの両者で折半するという条件も提示している。クレインのイラストをレヴァレット (A. Leverett) が木版で彫ったものだが、最初はモリスも好印象の感想をクレインに書き送っている。しかし親友ウェッブがこのイラストには大いに不満で、それが影響したのかもしれないが、モリスは新版『輝く平原の物語』をケルムスコット・プレス印刷物の失敗作の一つと考えるようになった。ウェッブは特にクレインの描いたイラストの人物と衣装の杜撰さを酷評している。モリスとウェッブが如何にクレインの挿絵に不満でも、23葉の挿絵が眺める楽しさを与えてくれたことは確かである。「君の(挿絵の)木版画、なかなか素敵だよ」という最初のモリスの印象は、半分は本心だったような気がする。(前田雅晴)