W・モリスのケルムスコット・プレス


6.ウィリアム・モリス『ジョン・ボールの夢/王の教訓』

1892年 ハマスミス刊 Flower(1)小型4折判(200×140mm) ゴールデン活字 ボーダー3a・4・2番 紙刷り(300部):30シリング[ヴェラム刷り(11部):10ギニー]
Morris, William -- A Dream of John Ball and A King's Lesson. 123 pp. Hammersmith : Kelmscott Press, 1892.
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『ジョン・ボールの夢/王の教訓』  この作品は、1381年のワット・タイラーの農民の反乱を素材にした社会主義的ロマンスである。語り手の 「私」がある夜夢の中で500年前のケントの反乱農民とともにロンドンに進軍する前日のことを描いた物語である。物語最後の部分では、反乱首謀者ジョン・ボールの質問に答えて 「私」が人類の未来の史的展望を長々と語る。『ユートピア便り』(No.12)とともにモリスの社会主義啓蒙の書であり美しい夢物語でもある。
1884年末にモリスは社会主義同盟を設立。 1885年から90年にかけて同盟の機関誌『コモンウィール』を編集、自らも定期的に寄稿したが、『王の教訓』が掲載されたのは1886年9月18日号、『ジョン・ボールの夢』は1886年11月13日号から87年1月22日号にかけて同誌に連載された。リーヴズ・アンド・ターナー社から単行本として出版されたのは1888年、ケルムスコット版の底本はリーヴズ・アンド・ターナー社版の第3版(1890年)である。コッカレルによると、この時期既にトロイ活字使用の準備がおおよそ整っていたらしい。モリスはこの『ジョン・ボールの夢』をトロイ活字で印刷することを考えていたらしいが、結局はゴールデン活字で印刷された。1892年4月印刷開始、5月初めに口絵部分を除いて印刷完了。 「アダムが耕し、イヴが紡いだ時、一体誰がジェントルマンだったのか」というモリスのレタリングの銘も有名だが、バーン=ジョーンズの口絵(フーパーが木版に彫りなおしたもの)も我々にはすっかりお馴染みである。W.モリス著/横山千晶訳『ジョン・ボールの夢』(晶文社,2000)の邦訳がある。(前田雅晴)