W・モリスのケルムスコット・プレス


50.ウィリアム・モリス 『ヴォルスング族のシグルズとニーブルング族の滅亡の物語』

1898/ ハマスミス刊/Apple/小型2折判(327×234mm)/チョーサー活字・トロイ活字/ボーダー33a ・33番/紙刷り(160部):6ギニー [ヴェラム刷り(6部):20ギニー]
Morris, William -- The Story of Sigurd the Volsung and the Fall of the Niblungs. 207, [2] p. Hammersmith : Kelmscott Press, 1898. 所蔵情報へ所蔵情報

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『ヴォルスング族のシグルズとニーブルング族の滅亡の物語』 おそらく1260年頃アイスランドに成立した叙事詩『ヴォルスンガサガ』(Volsunga Saga)は、ワグナ-(Richard Wagner, 1813-83)を刺激して『ニ-ベルングの指輪』(Der Ring des Nieberungen)を作曲(1874完成,1876初演)させたが、モリスもこの「北方の偉大な叙事詩」を韻文に英訳して1876年に『ヴォルスング族のシグルズとニ-ブルング族の滅亡の物語』を発表した。(刊記では1877年発行)
 モリスはこの作品を極めて高く評価し彼の生涯の中心的業績と位置付けており、1895年のインタビュ-では「私のすべての著作のなかでも、とりわけこの本にはできうるかぎり美しい形をもたせたいものだと願っています」と述べていた。工房もバ-ン=ジョ-ンズの挿絵が25点入ることを予告していた。バ-ン=ジョ-ンズはモリスへの気遣いから挿絵の仕事を請けはしたが、「サガ」の世界を好まなかったために仕事を先延ばしにしていた。1896年10月にモリスが他界すると計画は縮小され、18ポイント大のトロイ活字から12ポイント大のチョ-サ-活字に、2折判から小型2折判に、挿絵は25点から2点に変更されて、1898年に本書は陽の目を見ることになった。
 画像に揚げた見開きの左頁は、ヴォルスング王の宮廷広間とバルンストック(Branstock)と呼ばれた樹。本文最後に添えられた2点目の挿絵は、アトリ(Atli)の館に火を掛けるシグルズ(Sigurd)の元妻グズル-ン(Gudrun)を描いている。両挿絵を囲む縁飾りはモリスによる最後のデザインと目されている。なお原典が谷口幸男訳『アイスランドサガ』(新潮社,1979)に収録されているので、固有名詞の読みは谷口訳に従った。(藤井哲)