W・モリスのケルムスコット・プレス


27.ウィリアム・モリス 『世界のかなたの森』

1894年/ハマスミス刊/Flower(2)8折判(200×140mm)チョーサー活字ボーダー13a・13番紙刷り(350部):2ギニー [ヴェラム刷り(8部):10ギニー]
Morris, William -- The Wood beyond the World. 261 pp. Hammersmith : Kelmscott Press, 1894.
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『世界のかなたの森』 この作品は、ケルムスコット・プレスで印刷する目的で書かれたものである。それゆえ、モリスの原稿の中に、装飾頭文字や葉飾りを入れる場所が示されている。未知の世界を求めて故郷ラングトンをあとにした若者ウォルター。美しい貴婦人と乙女と小人、謎の三人連れに誘われて、地の裂け目から不気味な森中へと踏み込んでいく。騎士物語の冒険と栄光、妖精譚の魅惑と神秘とを巧みに結びつけた、正にファンタジー文学の佳品である。印刷は1894年春に行われたが、バーン=ジョーンズの口絵が完成しなかったので出版はその年の秋になった。ある語句 (‘somewhat uneasy going’ と刷るべきところを ‘somewhat easy going’ とミスプリントした) の印刷ミスがあって、4分の1シート(全紙の4分の1。この刊本の様に8折判の場合は全紙16頁取りなので、4頁分)印刷をやり直すというハプニングもあった。しかし、書物自体は発売の日までに僅かの部数を除いてすべて売り切れた。縁飾りと10点の半縁飾りはこの本で初めて使用された。1895年2月21日、モリスはローレンス・アンド・ブレン社から普及版を出すことに同意したが、これは、アメリカでこの作品の海賊版が出ていたことへの一つの対抗処置であった。晶文社から刊行中の「モリス・コレクション」に小野二郎訳『世界のかなたの森』の一巻も含まれているが未完『ユートピア便り』刊行後に刊行を予定しているとのこと(昌文社編集部)。1979年に同社から出版された同名書は現在品切中。(前田雅晴)