W・モリスのケルムスコット・プレス


46.『フロワサール年代記』試し刷り

1897年/ハマスミス刊/2折判(424×283mm)/チョーサー活字(本文)・トロイ活字/ボーダー32番/ヴェラム刷り(160部):1ギニー
-- Froissart's Chronicles (specimen pages). 4 pp. Hammersmith : Kelmscott Press, 1897

本学図書館は未所蔵.

関連資料『フロワサール年代記』試し刷り

[1896年]/ハマスミス刊/Perch/2折判(424×291mm)/チョーサー活字(本文)・トロイ活字/紙刷り(32部):非売品
-- Froissart's Chronicles (specimen pages). 16 pp. Hammersmith : Kelmscott Press, [1896]. 所蔵情報へ所蔵情報

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『フロワサール年代記』試し刷り
 フランスの年代記作家フロワサールは百年戦争末期の出来事を『年代記』(4巻)に記述した。第1巻は百年戦争に関わるフランス、イングランド、スコットランド、スペイン、ブルターニュの1327年から1400年の時代を、第2巻はフランドルの情況とトゥルネーの和議に関して、第3巻はスペインとポルトガルについて、第4巻はボワチエの戦いのことを描いている。フロワサールの生まれに関しては詳しいことは不明だが、知遇を得ていたエノーのフィリッパがイングランド王エドワード3世に嫁ぐ際あとを追って同王に仕え、長らくイングランド王の庇護のもと、ヨーロッパ各地を訪れる機会を得た。スコットランド、イタリア、フランス、イベリア半島諸国――百年戦争に関係する国々をほとんど訪れることが出来たのである。
 バーナーズ訳の『年代記』もチョーサーと並んで学生時代からのモリスの愛読書の一つであった。彼が持っていたのは1812年版。この作品を印刷する計画はケルムスコット・プレスの初期からあった。トロイ活字が完成した1892年1月に試し刷り1ページが刷られたし、1893年初冬、チョーサー活字による2欄組の試し刷りが行われている。1893年12月のプレスの広告用チラシでは同作品が印刷中で150部刷られる予定、と記されている。しかし、1893年10月バーン=ジョーンズがケルムスコット・プレス版『年代記』のために聖ゲオルギウスその他の大型紋章デザインを担当しようと申し出てその準備のため暫らく印刷作業が休止状態になったこと、また『チョーサー作品集』(No.40)の印刷が始まっていて、この上に2折判の『年代記』印刷には取り掛かれなかった、というのが実情である。ケルムスコット・プレスの出版物中の白眉、『チョーサー作品集』と同じ2折判で、先端部分のとがった独特な頭文字と盾の装飾を考案していたが、モリスの死によって未完に終わってしまった。1897年10月に2葉(4項分)の試し刷りが160部(ヴェラム刷りのみ)1部1ギニーで出版された。奥付に「バーナーズ卿訳フロワサールの企画された版のこれらの試し刷り2頁はウィリアム・モリスの手になるデザインを保存すべく1897年9月、ケルムスコット・プレスで印刷された」とある。このヴェラム試し刷りよりも前、既に活字に組まれてあった約34頁中16頁分が32部のみ刷られて、1896年12月、亡きモリスを偲ぶ友人たちに配布された。本学図書館収蔵の『フロワサール年代記』(試し刷り)はこの32部のうちの1部である。(前田雅晴)